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ーー今作の構想はいつごろから、どのように始まったんでしょうか。
「前作『CUTE』(2015年)の終わりごろから、なんとなく作業を始めてるんです。2016年の1月にMETAFIVEのプロモーションで、細野(晴臣)さんのラジオに出たんですよ。"メタ(METAFIVE)をやりつつ、そろそろ次のも始めてます。次(のタイトル)は『EMO』ってタイトルにしようと思ってるんですけど、どうですかね?"って話をしてるんですよ(注:放送ではその部分はカットされた)」
ーータイトルはその頃から考えていたと。
「ちょうど前年の暮に『スター・ウォーズ』のエピソード7(『フォースの覚醒』)が公開されたばかりの頃で。そこからカイロ・レン(アダム・ドライバー)っていう新キャラが登場したんですよ。ダース・ベイダーの孫でハン・ソロの息子なんだけど、ダース・ベイダーに傾倒してダーク・サイドに行っちゃったという役。基本マスクをかぶってるんだけど、ちょいちょい脱ぐんですよ。そのカイロ・レンがマスクを脱ぐ時の感じがエモいな、と。主人公の女の子のレイ(デイジー・リドリー)も最初はマスクをして出てきて、途中で脱ぐ。元ストームトルーパーのフィン(ジョン・ボイエガ)も、自分が脱走兵であることを明かして、マスクを脱ぐ。つまり新しいキャラクターをブランディングするにあたって、マスクを効果的に使っているわけです。滅多にマスクを脱がないような悪い人がマスクを脱ぐ。マスクを脱ぐことで、悪の象徴であるようなカイロ・レンが、ダース・ベイダーにコンプレックスを抱えていて"オレは爺ちゃんみたいになれない"と悩む生身の人間であることが明らかにされる。それがエモいな、と感じたんです。ラジオに出た時、細野さんはまだ『フォースの覚醒』を見ていなかったんだけど、そのカイロ・レンがマスクを脱ぐシーンのエモさは細野さんも評判を聞いて知っていた。でもアルバムが出るころにって言葉は古くなってるんじゃないの、みたいなことを細野さんに言われたことを覚えてます」
ーーEMOってそもそもどういう意味合いで使われてますか。
「EMOって音楽ジャンルがあるんですよね。僕は全然知らないですけど。もちろんそれとは全然関係ないです。<emotional>の『EMO』ですね」
ーー感情を揺さぶられる、ぐらいの意味ですね。
「僕はTOWA TEIとして、営業で人前に出ていく時は必ずサングラスをしますけど、今回はそういう<マスク>を脱いで、今の素の自分をバイアスをかけずに出してみようと思ったんですね」
ーーバイアス、ですか。
「たとえば『SUNNY』(2011年)は、バイアスを自分に課したんですよ。晴れた日にしか曲を作らなければ、明るい曲ばかりになるんじゃないかなと思った。『LUCKY』(2013年)は、ラッキーラッキーと言っていればラッキーが増えるなと思った。『CUTE』(2015年)も同様です。基本的にポジティヴ・ワードを選んでバイアスをかけていた。ポジティヴ・シンキングというかね。でも『EMO』では、そういうポジティヴ・バイアスを外してみようと思ったんです。もっと<素>でいこうかなと。それはたぶん、10年ぐらい前にタワー型のMacからラップトップに制作用のコンピューターを移行したのが関係してると思うんです。いつでもどこでも音楽制作ができるようになって、スタンスが大きく変わってきたんですよ。フォーク・ミュージックはギターと声さえあればどこでもできるけど、自分もラップトップ1台あれば、いつでもどこでも音楽ができる。それが自分のライフスタイルになってきた」
ーー音楽に向かう姿勢がどんどん自然体になってきた。
「うん。だからもうバイアスをかける必要もないのかな、と。スター・ウォーズの新キャラを見てもね。弱音いっぱい吐いてるし、僕も弱音を吐いていいのかなと(笑)。音楽って手癖だけだと作れないんですよ。推進力がないと作れない。強いエモさがないと進んでいかない。なので『SUNNY』のようにバイアスをかけることもあれば、今回のように『EMO』というテーマを設けたりする」
ーー実際の制作作業はいつごろから始まっているんですか。
「曲によってはかなり前から作っているものもあります。たとえば今作の"Xylocopa"(「熊蜂」)という曲は、だいぶ前に途中まで作っていた曲なんです。夏のある日にテラスに出て涼もうと思ったら熊ん蜂に刺されたんですよ。それがすごい激痛で、そのうえすごいバッド・トリップで、今までなったことのないような偏頭痛に襲われて死にそうになったんです。死についてはほぼ毎日考えますけど、こんなことで死ぬんだ、と思って。その翌日に、その体験を曲にして"Xylocopa"と名付けたんです。でもその時は『LUCKY』を作っていたから、こんな体験全然ラッキーじゃない、アンラッキーだと思って、曲はそのまま放置しておいたんです。作ってる時は無心で作ってるけど、でも一方で俯瞰で見るような、バランスを見る自分もいるので」

ーー「死について毎日考える」ってどういうことですか。
「(高橋)幸宏さんは常々おっしゃるわけですよ。僕は時間が限られてるからな、と。僕は僕でこの10年ぐらい、死を意識しなかった日ってなかったんです。親友が5年前に亡くなったんですよ。結構長い闘病を経て。それはすごく大きかった。ちょっと年上で、唯一の行きつけの店のオーナーだったんですけどね。その彼が大腸ガンになって、わかった時にはもう末期だった。余命数ヶ月と言われて、結局それから6年生きましたけど。そんなことがあって、人生先行きわからないよなっていうのをリアルに感じて。その間僕も40代から50代になり、どんどん体力も下がっていくのを自覚するわけです。結局デッド・エンドじゃないですか、死って。日々、死に近づいているのを実感するわけです。なので、その時その時でできることと、やりたいこととをいつも考えて、積極的に集中と選択しなきゃと思うようになったんですよ」
ーーアルバムをあと何枚作れるか、とか意識しますか。
「する。します。将来を考えると不安もあるけど、病気はやはりストレスとか大きいと思うから、基本は"頑張らない"ようにする。ここ3年ぐらい現場のDJの仕事を減らしたのもその流れです。もっと音楽を作りたいし、作れる自分でいたいと。いつも考えますよね。どうしたら続けられるか。そのためにどうするか。たいていの人は、なんとなく呼ばれなくなって、なんとなくギグの数が減って、なんとなく曲が浮かばなくなって......」
ーーいつのまにかフェードアウトしていく。
「それじゃ面白くない。現時点ではそんなに長生きしたいとは思わないけど、でも音楽はずっと作り続けたい。最近メタのインタビューで言われるんですよ。テイさんはコンスタントにアルバム作ってますね、と。その横で砂原(良徳)Pが小さくなってたりするんですけど(笑)、実は砂原Pはコンスタントに仕事してるんですよ。新人をプロデュースしたりマスタリングしたり。でも僕はそういう仕事をあまりやってない。代わりになるべく自分のソロを自由にできるような態勢にしてるんです。それは一番楽しいし大変。大変だからこそやりがいもあるし達成感もある。完成間際になるとこうやって五木田(智央)君に絵を描いてもらえたり、お楽しみが待ってるんで。ほんとはジャケだけでいいんです。中身が入ってなくても(笑)」
ーー今回も『CUTE』『METAFIVE』に続き五木田さんがジャケットを描いています。むしろテイさんとしては五木田さんにジャケを作ってもらうために音を作っているような感覚もある。
「(笑)そうそうそう。そこは楽しみですよね。五木田君とはすごく共通項が多いですね。違う部分も大きいけど、でもテイストが合うし深く話せるし。ここ2年以上ずっと追いかけてますけど。ニューヨークやロサンゼルスの個展も行ってる。そういうことが楽しい。若い頃は飛行機代使って誰かの個展を見に行くなんてしなかったわけで。それは死に向かっていくのと同様、若い時にはできなかったことだし、思いもつかなかった行動とかプライオリティがある。人生は変化だし、変化しない人生はつまらない」
ーー今テイさんが音楽を続ける最大のモチベーションってなんですか。
「(即答)孫ですね(笑)。孫に僕の音楽を聴かせたい(笑)。孫、まだいないですけど(笑)。でもマジな話、僕の一番の弱点は物欲というかビジネス欲というか、もっと儲けたいという欲が弱いところかもしれないですね。まったく欲がないわけじゃないですよ。孫が、"これが欲しい"と言ったら、値札を見て"高いからこっちにしなさい"なんてジジイにはなりたくない。それぐらいは稼ぎたいと思うし、じゃあ好きなことをもう少し頑張っておこうかなと。好きじゃないことは頑張れないですよ」
ーーそりゃそうですね。

「古い曲といえば、"REM"も古いです。REM睡眠のREMですけど、<眠たい感じ>を曲にしようと思ったんです。3.11のあとに僕は音楽を作ることも聴くこともできなくなってしまったんですね。一月ぐらいしてから、ハーリー・パーチなどの現代音楽やノイズ・ミュージックみたいなものを聴けるようになって、それから(ジョン・)ケージとか(スティーヴ・)ライヒとか、もともと好きだったものを聴き始めて。ポップスじゃないもの、非音楽から現代音楽と聴くようになって、そろそろやってみようかと思って最初に作ったのがこの曲なんです」
ーーなるほど。
「最初はもっとアブストラクトなインストだった。その時は完成せず、ずーっと放置しておいたんだけど、『EMO』というテーマで、自分の中でアウトプットの基準を広げてみたら、これもまた<アリ>だなと思えたんです。9枚目のアルバムだから9曲入れて9つのエモーションを、51歳になった自分の今のエモーションを表現するために、この曲が必要だと思ったんですね。普通眠たい感じを曲にしようとは思わないけど、でも<眠い>って、ほぼ毎日のようにある感情だし、今回のテーマが『EMO』だったら、合うなと思ったんですよ」
ーー「眠い」って感情ですか?
「(笑)生理か。"眠くて気持ちいい"とかね。プリンスの死がひとつのきっかけになりました。別にプリンスっぽい曲じゃないですけど、でも彼の訃報を聞いて、インストだったこの曲を歌ものにしようと思った。それも歌い上げるようなものじゃなく、可愛いというかアイドルっぽい歌がいいと思い、急遽歌メロを考えて」
ーーなぜプリンスとアイドルっぽい歌が繋がるんです?
「(笑)なぜでしょうね。なんか......自分の中で通じるものがあるんでしょうね。プリンスをなぞってるとか、そういうのではまったくないですけど。でもプリンスをさんざん聴いて、自分なりに追悼したら、あの曲をもう一回やってみようと思いたったんです。歌メロを考えて、誰に歌ってもらおうかと検索して、この子(アイドル・グループ、ゆるめるモ!のあの)が合いそうだと思って、ツテを頼ってオファーしてみたら、向こうの事務所の社長も僕の音楽を知ってたので、ぜひぜひという話になりました。僕の場合、すんなり完成するものの方が出来がいい場合が、結果として多いんだけど、"REM"の場合はすごい間が開いて途中で止まったりもしたけど、今回こうやって完成して日の目を見た。ここまで寝かせて、でも結果として、それですごくいい曲ができた。そういう音楽の面白さってあると思うんです」
ーーええ。
「なので制作作業ということだと、その2曲は相当に長い期間を経て形になっています。あと"GBI"も古い曲ですね」
ーー『Sound Museum』(1997)収録の「German Bold Italic」のリメイクですね。カイリー・ミノーグがヴォーカルで参加した曲です。
「代表曲のひとつではあるんですけど、ベスト盤『94-14』(2014)には入れなかったんですよ。"Sometime Samurai"(これもカイリーが参加)の方は入れるし、カイリーとのは1曲で十分かなと思って。でもあの曲をもう一回やりたいとはうっすら思ってたんですよ。それで(『EMO』が出る)2017年は"German Bold Italic"リリースからちょうど20年だし、リメイクーー作業的にはリミックスですがーーするにはちょうどいいタイミングなかと思ったんです。四つ打ちの曲ですけど、今回は四つ打ちじゃないリズムでやりたいなと。今作には四つ打ちの曲が入ってませんから、気分的に」

ーー今回のアルバムはMETAFIVEのアルバムと同時進行か、ちょっと早いぐらいのタイミングで制作されていたわけですよね。METAFIVEの影響というのはありましたか。
「ないわけはないと思うんです。最初は幸宏さんとバック・バンドという形で始まったのが、好評につき続けてたら、アルバムも作り、ライヴ・ブルーレイも出して、ツアーもやって、ミニ・アルバムも出した。めっちゃ濃い1年だったんですよ。『EMO』はその合間を縫って作るような形になった。メタと同じようなアルバムを作ろうなんて意識は全然なくて、メタで男っぽくこってりした高カロリーな歌もののアルバムができたので、ソロでは違うものを求めたというのはあったと思うんです。女の子のヴォーカル、UAだったり(「Sugar」)」、あのちゃんだったり(「REM」)、The Bird & The Beeのイナラ・ジョージに歌ってもらったり(「YOLO」)、水原シスターズに入ってもらったり(「Brand Nu Emo」)。そうやってバランスをとってるんですよ。ディー・ライトの時はバランスがとれなくて、僕が抜けるしかなかった。イヤでイヤでしょうがなくてストレスで体調を壊してね。飽きっぽいんですね。音楽に飽きることはないけど......」
ーーテイさんはどちらかというと、音楽を演奏することよりも、音楽を作ることが好きなんじゃないですか。
「そうそう」
ーーライヴみたいに完成したものを繰り返す行為というより、作る過程が楽しい。
「そう。ディー・ライトで、自分が作ったメロディをみんなが口ずさんだり、イントロでわーっと歓声があがったりするのはすごいことだなと思ったけど、すぐに飽きちゃった。毎日同じ曲を練習したり演奏したりするのが耐えられない。ライヴで口パクだとか言われるのをヴォーカル(レディ・ミス・キアー)がいやがって、ブーツィ・コリンズとかバーニー・ウォーレルをバックに、同期も何もやらないで生演奏するようになった。そうすると失敗しないことばかりに気を取られるようになって、それがすごいストレスだったんです。不安定な機材で毎度同じ曲をやるのがね。再現性になんか興味ないし。今だったらテクノロジーも違うから、全然状況が違うと思うけど」
ーーメタの時はどうだったんですか。
「メタの時は自分で自分の逃げ口を作ったというか。テンパらないようにね。過去にテンパった経験があるから。サヴァイヴ術を作ったんですよ。メタのメンバーの中で一番やることが決まってなくて、毎回やることが違うのは僕なんですよ。即興係みたいな。決めごとを持ち込むのが苦手なんですよ。毎回同じようなネタを使う時もあるけど、時にはライヴ中にiTunes Storeで曲を買ってDLして、イントロで使ったりとかしてますよ」
ーーよくミュージシャンに聞くのは、スタジオでのストレスをツアーやライヴで発散する、解放されるっていう話です。テイさんはそういうのはないんですか。
「それって元々音楽との接し方がプレイヤー指向だからじゃないですか? 僕は元々プレイヤーじゃなく、特に弾ける楽器もなく、コンピューターをいじるぐらいしかできない。でも曲を作ることは好きなんですよ。道具としてのコンピューターに助けられて」
ーーライヴでお客とコミュニケーションすることにも関心ないですか。
「ないですね。こないだメタのインタビューで砂原Pが言ってましたが、続けていくモチベーションは何ですかと問われて、彼の場合は、曲を作っても常に満点じゃないから、と言ってました。満点=完璧なものにしたいから、それが次に繋がると。僕とは真逆だなと思ったんです。僕はその時なりのベストは尽くすけど......たとえば今回9枚目だから9曲って決めたら、9曲が揃ってこのクラスタでいいなと思ったら、それで終わりなんで。その後は全体のバランスを整えるようなプロデューサー的な立場に変わる。そこで気持ちが切り替わるんですね」
ーーメタの場合、テイさんの社交的な部分が出てくるというか、誰かとの共同作業で生まれるものが、メタによって担われている、という印象があります。そうじゃないもっとパーソナルな部分が今回のアルバムに出てきたのかなと。
「正直ぼくはメタができてラッキー、って感じですよ。2曲書いただけでアルバムできちゃうんで、こんな楽なことはないすよね。今まではソロしかなかったけど、今はメタがあってのソロですからね」

ーーミックスは今回ゴウ・ホトダさん、マスタリングは砂原良徳さんが手がけています。ソロといいつつ、これは一種の共同作業ですね。
「近年自分でミックスする人が増えてるでしょ。特にこういうダンス・ミュージックとか、プロダクションが大事だし音圧とかEQとか。自分でやる人が多い。予算がないから自分でやるって人も多いけど、僕はあえて別の人にお願いしている。今回はゴウ・ホトダさんに全曲をお願いしました。ホトダさんにミックスをお願いするには、<バウンス>といって全部のトラックをパラで書き出して渡さなきゃいけない。面倒と言えば面倒ですけど、そこで自分の中でなんとなく固まっていた適当なバランスがリセットされるわけですよ。マルチトラックを通じてコミュニケーションすることが必要なわけで、一回客観的にならなきゃいけないんです。一回更地にして、もう一度作り直す作業がある。予め渡して、ある程度自分の思い描いてるものに近づいてきたら、そこで初めて熱海のホトダさんのスタジオに行って一緒に作業するんです」
ーーおっしゃるように、ダンス・ミュージックの作り手としては珍しくミックスもマスタリングも、外部の人に委ねている。そうすることで改めて気づいたこととかありますか。
「ゴウさんが解釈するとこうなるんだなっていう。細かくやりとりすることもあれば、ゴウさんに委ねる場合もある。ゴウさんはアナログのコンプやEQをうまく使って、デジタルとアナログを組み合わせて新しいことをやってるんですよ。それが面白い。ゴウさんのところで使ってるスピーカーとウチで使ってるスピーカーが同じなので(フィンランドのAmphionというメーカー)、家で聞いてもだいたい同じ印象でわかりやすいし。そうやって出来たものをもう一回人に委ねて客観的になって見てみるわけです」
ーーなるほど。
「マスタリングの作業はだいたい立ち会って、細かく打ち合わせしながら作っていきますけど、今回は砂原Pで、メタでやって気心が知れてるし、優秀だし、自分に近いところも一杯あるから、委ねられる。客観的だけど、自分とテイストが近い砂原Pなら、言わなくてもわかる。奴なら立ち会わなくてもいいなと。ゴウさんも"砂原さんのマスタリングいいですね。僕のも頼みたいぐらいだ"って言ってたから、良かったなと。すごくアナログライクな、それもレトロじゃない現代のアナログの音と、デジタルの感覚が合致した音に仕上がってると思いますね」
ーーゴウさんや砂原さんにお願いするのは、自分の感覚に近いところで、自分がやるよりも効率的に巧みにできる人だから頼んでいるのか、それとも自分にないものを付け加えてもらうのか。
「もちろん両方ですね。ゴウさんはやっぱり巧いし、僕ひとりではあんなにできないし。と同時にゴウさんひとりでやってもああはならないだろうし。僕は常に次に行きたいから」
ーー目的の場所に辿り着くために一番効率的なやり方でもあり......
「そうですね。タイム・イズ・マネーな感じ」
ーーそれと、自分ひとりでは到達できないところに、ホトダさんや砂原さんのスキルや感覚があれば、辿り着ける。
「だからお金を払ってやってもらうわけでね。ゴウさんのスキルに僕が到達するのは20年ぐらいかかるんじゃないですか(笑)。自分ひとりの力で完璧さを求めてやってたら、いつまでたっても終わらないんですよ。さっきの話に戻ると、そこで死んじゃったら終わりじゃないですか。そこがデッドエンドだし。そういうことを考えると、今自分が作ろうと思うモチベーションとか、作りたいと思う気持ちとか......今結構エモくなってきてますよ。(表現衝動が)溜まってきてる感じがありますよ。作りたくてしょうがなくなってきてる」
ーー完成したばかりなのに?
「ええ。新しいMacにしてからインターフェイスが合わなくて、いろんなシンセとかまだ繋がってないんですよ。でもそれはそれでいいやと思って。この1台だけでできることをやろうと」
ーーなるほど。
「音楽だけ作るのも好きだけど、パッケージで考えるのが楽しいんです。ハイレゾ環境でいつも作ってるんで、パッケージを手に取り開けた瞬間とか、そういうところが楽しみでやってるところがある。僕も五木田君も、未だに店着日に自分のCDが並んでいるのを見るのが好きですね。そこでリセットできるしね。自分で自分の作品を楽しむためにも、最後の段階であえてゴウさんや砂原Pに委ねるのかもしれないですね。余白を作る、というか。自分が歯を食いしばって最後までやってたら、"もういいや"ってなっちゃうときがくると思う。入ってる音は全部自分が入れた音だけど、なんか新鮮に聴けるし楽しいんですよ」
ーー今回は録音とミックスがいいですね。『LUCKY』『CUTE』『EMO』とごっちゃに聴いても違和感がない。そのつどのテイさんの精神状況は反映されているんだろうけど、音として一貫性があり、違和感なくシームレスに聴ける。
「その作業ってミックスとかマスタリングだと思うんですよ。僕らは永遠に続けてられるんですよ。80トラックでも。RAMの許す限り、Macが走る限り。でも一般向けにするために2チャンネルにする。細野(晴臣)さんは「ミックスは社会性なんだ」って言うんですよ。だから嫌いだって。ヒッピーぽいことを言うんですよ(笑)」
ーーミックスを人に委ねるのは、そういう客観的な社会性を重視するということですか。
「というよりも、僕がリスナーとして、より楽しむため。最後の最後に苦労したって思い出が強くなると、当分聴きたくなくなるから。一回更地にして、また作り直して思い通りのものになると、音でコミュニケーションできたという手応えがある。一曲ずつ仕上げるのがゴウさん、それをシームレスに1枚のアルバムとしてならすのがまりん。どっちも僕はできるけど、そこをチームでやった方が楽しくね?という。僕はその方が楽しめる。もう少しシンセの音が欲しい、というときも、僕が埋めることはできるけど、僕のテイストだけじゃなく、僕とは違う人のテイスト、まりんでもDorianでもひとつでも音を入れてくれることで、自分がリスナー的になれるし、アレンジも進む。それにまたインスパイアされたしね。そういうキャッチボールは音楽の要素なんで。インストでも自分が全部やる必要があるとは思ってないので」

ーーもうひとつ大事だと思うことがあります。先日軽井沢のテイさんのご自宅のスタジオにうかがって、閑静な別荘地の中のあたり一面雪景色という環境が音楽作りに与える影響も無視できないと思いました。たとえば東京の繁華街のど真ん中のスタジオで作るのとは、ずいぶん変わってくるのではないか。
「あのままずっと東京にいたら......というたらればはない話なんだけど......と、よく言われたんですよ。"35歳でもうアガリ?""セミリタイア"とかさんざん言われたけど、これはきっと延命措置に繋がるなと思ったんですよ、作家としての」
ーー今の環境だと音楽のモード性みたいなところからどんどん離れていくと思うんです。
「うん。と同時に、どこにいてもインターネットがあれば情報は入ってくるんですよ」
ーーそれは自分で選択できるじゃないですか。否が応でも入ってくる感じじゃない。それこそ錆び付いたアンテナでも必要な情報は入ってくるし("Radio"2013年)、それでいいということですね。
「そうそう」
ーー必要以上のモード性から離れているから、何年たっても古びない。一時的な流行というよりは、10年たっても20年たっても新鮮に聞こえるものになってるんじゃないか。ダンス・ミュージックってモード性みたいなものが重視される傾向が強いから、珍しい例だと思います。
「そうですね。ていうか、それ(モード)に乗っかることしか頭にないクリエイターが多いんじゃないですか? よっしゃEDMでいくぞ!みたいな」
ーーそういう風に追い立てられるように「モードに乗っかった音楽をやらなきゃいけない」って思い込む不毛なサイクルみたいなものを抜け出したところで鳴ってるのが、テイさんの音楽である。
「うんうん。既にプロなのに、このブームにあやかりたい、みたいなさ。オレもピコ太郎になりたい!みたいな(笑)。そういう人が多すぎますよね。僕はスキルがなかったというのもあるのかもしれないけど、"テイ君ぽいね"と言われることが昔からコンプレックスでもあったんですよ。"ぽい"って言われても、これしかできないし、ていう。でもいつからかプロになって、臆面もなく職業欄に<音楽家>って書くようになって、家も建てた。逆に今は器用にならないように気をつけてるんですよ。何でも出来ちゃわないように」
ーーだからゴウさんやまりんに委ねる。でもその気になればなんでもできるでしょう。
「いやあできないですよ。これしかできない。高倉健じゃないけど、不器用ですから!」
ーー(笑)そうですか。
「前は周りに自分より大人の人がいたんですよ。そういう人たちがうまく誘導してくれた。今の吉本の社長ですけどね(大﨑洋氏。当時吉本興業所属だったテイのマネージャーだった)。何をやりたいか訊かれて"ダウンタウンとやったのは楽しかったから、またああいうのをやりたい"と言ったら、今田耕司さんとご飯食べにいくことになって、デュラン・デュランの話で盛り上がって、僕すぐに"ナウ・ロマンティック"を書きましたから。そうやってお題を与えてくれる人がいてできることもあるし、NOKKOちゃんのプロデュースをした時は、1位を獲りたいと言われて、器用なふりをして頑張って獲りましたけど、これを続けるのはきついなと思って。何位とかは興味もないし。リミックス仕事もあまり好きじゃなくて、断り続けているうちにオファーも減ってきたし」
ーーそう考えると、本当に曲を作る以外に興味がないんですね(笑)。
「そうですねえ(苦笑)」

[楽曲解説]
1)「Exformation」
ーー高橋幸宏さんとLEO今井さんがヴォーカルで参加、シンセ・ベースで砂原良徳さん、フリューゲル・ホーンでゴンドウトモヒコさんが参加してます。小山田圭吾さん以外のMETAFIVE勢が勢揃いです。
「僕はこの2人のヴォーカルが好きなんですよ。ツイッターとかSNSには、"今自分の中で一番熱いことは全然書けなかったりする"ということを歌詞にしました」
2)「Brand Nu Emotion」
ーーヴォーカルでMETAFIVEと水原姉妹(水原希子、水原佑果)が、ギターが小山田さん、キーボードとアディショナル・プログラミングで砂原さん。楽曲はLEO今井さんとの共作です。
「朝についての歌。今日はどういう一日にしようかな、という」

ーー小山田さんはこのほかにも「Xylocopa」「YOLO」と計3曲で弾いてます。
「ある程度出来上がってから弾いてもらってます。小山田のギターを前提としているわけではないですね。小山田でなくても良かったかもしれないけど、ある程度信頼があるから。面白くないことはないだろう、という。日本一というか、世界的に見てもトップクラスで面白いギタリストだと思いますね。どこが面白いとか言えないけど、単純にかっこいい。ニュー・ウエイヴな部分。メタで全員の共通項としてあったのは、ディーヴォが好きヘッズ(トーキング・ヘッズ)が好きという通底奏音があって。ロキシー(ロキシー・ミュージック)が好き、イーノ(ブライアン・イーノ)が好き。オレも砂原Pもゴンちゃんも小山田もみんなイーノが好き。バンドの6人中4人がイーノだという(笑)」
3)「GBI」
ーー1997年の楽曲「German Bold Italic」のリメイクです。ヴォーカルはカイリー・ミノーグと細野晴臣さん。ギターにバッファロー・ドーターのシュガー吉永さん、アディショナル・プログラミングで砂原さん。
「歌はほぼ全部そのままで、加工してません。ポエトリー・リーディングだと思うんですよ。四つ打ちにしてクラブでもかけて、という曲だったけど、四つ打ちというというタガを外して作り直したいと思いました。シュガーには新たに演奏してもらってます」
4)「Sugar」
ーー前作の「Sound Of Music」に続きUAがヴォーカルと作詞を担当。
「これは歌詞を書いた、UAによるラヴ・ソングですね。UAのEMOというか彼女はすごくエモーショナルな人だと思う。激しいところを持っている。そこを"ねえシュガー"という甘い言葉でバランスをとるというか。"ねえハニーねえダーリン"じゃ合わないんです。
ーー高野寛さんがギターを弾いています。フリューゲル・ホーンがゴンドウトモヒコさん。
「高野君とは64年生まれで同じ歳なんですよ。
『Future Listening!』(1994年)で高野君に頼んだら、そこからスタジオのギターの仕事が増えたんですって。それまではほとんどやったことないって言った。彼は"テイ君は勘違いしてる。僕はそんなに巧くない"というけど、巧いですよ。ただのスタミ(スタジオ・ミュージシャン)じゃないから惹かれるんでしょうね。個性があるし伝わりやすいし」
5)「Xylocopa」
ーーヴォイスでクレジットされている「Jacqui Fieschi」ってどんな方なんですか。「Exformation」でも喋ってますね。
「駒沢の友だちの店でコーヒー入れてるジャッキーって女の子です。特に音楽活動もしていない普通の女の子。ウィキペディア(熊ん蜂についての記述)を僕が拾ってきて、それを彼女のオーストラリア訛りで、彼女の言葉で喋ってもらっている。"Xylocopa"ってこういうものだよって説明する口調で。たまたまそこにLEO君がいて、すごいダメ出ししてた。LEO君はロンドン育ちで英語はネイティヴでしょ。僕と喋る時は僕がNY訛りだからなのか、あまりブリティッシュを出さずに喋ってくれるんだけど、彼女はオーストラリア訛りがいいから抜擢したのに、それが気になるらしく何度もダメ出ししてた。それもエモかった(笑)。カイリーもオーストラリアだけど、そういう訛りのある英語が好きなのかもね。砂原Pは一番この曲が好きと言ってました」
6)「TG」
ーー伊賀航さんがベース、ジャケットのイラストを描いている五木田智央さんがトランペットを吹いているインスト曲です。
「前半と後半で別の曲を合体したんです。五木田君がトランペットを吹いてる後半部がなんとなくスロッビング・グリッスルっぽかったので"TG"。なんだかわかんないけど、疲れてるはずなのに勃起しているんだよね、という感じのトランペットを吹いてってリクエストしました(笑)。Throbbing Gristle(脈打つ軟骨)ってペニスのことだから。スロッビング・グリッスルの具体的な曲が思い浮かんだわけじゃなくて、なんとなくイメージでね。五木田君はバンドをやっていたし、音でもコミュニケーションできる。センスがいいんですね。好きなものが共通している。言わなくても伝わる感じがある。砂原Pもそうですね」

7)「YOLO」
ーー「YOLO」は歌詞に出てくるフレーズ「You Only Live Once」「You Only Leave Once」の略ですね。
「これは若い頃には到達できなかった、加齢したラヴ・ソングです。"You Only Live Once"と"You Only Leave Once"は、離婚だか死別だかのダブルミーニングですね」
ーー歌はLEO今井と、The Bird and The Bee」のイナラ・ジョージが歌ってます。ギターは小山田さん、「Additional Few Keys」としてDorianがクレジットされています。
「曲調は、幸宏さんにジョージ・ハリスンぽいと言われました。僕歌いたいな、でもキーが高いかなと」
8)「REM」
ーーゆるめるモ!のあのさんがヴォーカル、バッファロー・ドーターの大野由美子さんがベースです。
「眠くてしょうがない、曲がつくれない、作ったけど眠い曲できちゃった、という。長い年月を経て、ある日ベースを入れようと思って大野ちゃんに入れてもらって、ベースがまた眠い感じでいいなと。あのちゃんは新しいタイプのアイドルですね。やる気なさそうな感じがいい。PVも寝てるところばかり撮ってます。本人も気に入ってくれたみたい」

9)「Continua」
ーーインストのエレクトロニカ。「Additional Edit and PreMix」で、Atom TM(セニョール・ココナッツ)がクレジットされてます。
「さくっとできたインスト曲です。メタでこういう曲があってもいいじゃん、と思って作ったけど、メタの活動休止が決まって、ひとりでインストとして仕上げました。インストだとアルバム上のバランスもいい。この曲が最後に入ると、次に続く感じがあるんですね。スター・ウォーズ的な終わり方というか。当初は別の曲(「Brocante」)が入る予定だったんですけど、それはいまいちアルバムとテンポ感が合わない。なのでこの曲ができて差し替えました。でもいい曲なので、7インチ・シングルとしてリリースする予定です」
ーーもう次を作りたくて仕方ない、というお話もありましたが、次のアルバムの構想はあったりするんですか。
「タイトルはもう決まってます。『10』」
ーー10枚目のアルバムだから。
「今回も『9』『NINE』というタイトル案もあったんです。でも『LUCKY』が5文字、『CUTE』が4文字だから、『EMO』3文字で いいじゃん、と(笑)。次は『10』2文字ですね」
ーーじゃあその次はどうするんですか。
「わかんない(笑)」

INTERVIEW