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TOWA TEI 還暦アルバム「AH!!」オフィシャルインタビュー全編公開!!

2025.03.29

TOWA TEI、3月29日(土)にTOWA TEIの還暦アルバム「AH!!」サブスク・配信を開始。
6月6日(金)にヴァイナルリリース決定、本日より予約開始。
ジャケットは横尾忠則によるポートレート描き下ろし。
本作についてのロングインタビュー全編を公開。


TOWA TEI 還暦アルバム『AH!!』について



──ニュー・アルバム『AH!!』の制作はいつ頃スタートしたのでしょう?

TT:今回もノー・コンセプトです。ただ、このアルバムは13枚目なんですよ。前作『TOUCH』(2023年9月6日)が12枚目。12ってひとつの区切りだったりしますよね。そして、2024年で僕自身が還暦という意識は、23年の時点であったんですよね。だから、24年には還暦の13枚目のアルバムを作って年内に出すぞ、それ以外は仕事しないぞ、と誓いを立ててたんです。ところが、24年の前半にまだ表に出せないものも含めて仕事がいくつも入ってしまい、還暦なのに何も出さないのもアレだなと思ったので、まずはシングル「TYPICAL! 」を配信と7インチのアナログで8月に出しました。ようやくアルバムに取り掛かれるようになったのは、9月くらいでしたね。


──そうか。僕の感覚では『TOUCH』と一緒に『ZOUNDTRACKS』も同日リリースされていたから、約1年半のスパンでも早いと驚いたくらいだったんですが、もっと早く出る予定だったんですね。

TT:そうなんです。作業自体も12月くらいには終わるかなと思って、曲順まで含めてひと通り決めていたし、曲によってはミックスの作業に入ったりしていたんです。ところが、その頃に「THE PROPHET」という曲が現れて、それを完成させるためにここまでずれ込んだという感じですかね。まあズレたらズレたでいいやと思ってはいましたけどね。


──高橋幸宏さんが生前に録音していたドラムのトラックを使った曲がAA①「THE PROPHET」。アルバムでもとても重要な位置に置かれている曲です。

TT:なので、今回はやっぱり「THE PROPHET」のことから話しましょうか。さっきも言ったように、もともとこの曲はアルバムに入る予定はなかったんです。それが、幸宏さんのドラムが入ったテープを発見したことから、大きく変化していきました。

 まず、僕がスタジオでレコーディングを始めた20世紀は、まだスタジオに行ってマルチトラックのテープで作業をしないと曲を仕上げられなかった時代なんですよ。そして、その頃の素材を入れたアナログのテープは、昨今かなり時間が経って劣化してダメになってしまっている。それで、ここのところそういうテープ素材をエンジニアに頼んでデジタルデータ化してもらってたんです。そこに、もともと「ALIGNMENT」というタイトルだった曲のトラックがあるのが見つかり、実はそこに20世紀末に(高橋)幸宏さんに「ドラムを録らせてほしいんです」とお願いして叩いてもらった1トラックが入ってたんですよ。

 その時点では僕はまだ幸宏さんとそんなに親しくなかったんですけど、「こういうループがあるので、それに合わせて叩いてもらえます?」とお願いしたら、叩いてくれたんですよ。でも、その時点では曲が完成してなかったし、当時作っていたアルバムに入れるのは見送ったんです。ところが後日スタジオから自宅に持ち帰ったマルチデータで作業しようとしたら、データが吹っ飛んじゃったんです。昔はよくあったことなんですけど、もう一回スタジオに戻ってデータを保存し直して作業する、という工程がその時点では思いつかなかった。曲も途中までしかできてなかったこともあり、その作業はいったんあきらめたんです。


──そこでいったん幸宏さんのドラムも、「ALIGNMENT」という曲も幻になったんですね

TT:ところが、METAFIVEで活動するようになり、ここ10年くらいで幸宏さんと密になった。そしたら、「そういえば、テイくんが録ってくれたあのドラムのトラック、どうなった?」って2、3回ほど聞かれたことがあったんです。そのときは、データがイカれちゃってどうしようもないという事情で謝っていたんですけど、2024年に昔のテープをデジタル移行していたらそのトラックが出てきた。1トラックは僕の作ったループで、もう7つのマルチトラックが幸宏さんのドラム。自分のループはともかく、20世紀に幸宏さんが叩いてくれたドラムのトラックがあるので、そこに新たに肉付けをしてみようと思ったんです。でも、その時点でも今回のアルバムに入れるつもりはなく、とりあえず作業を始めたんです。そして、今の形・マイナス・ベースという状態までにはなった。


──そこに、なんと細野晴臣さんのベースが入るわけです。

TT:今回この曲にもギターで参加している福原音くん(Chappo)にもベース無しの状態で聴いてもらい、「細野さんがベース弾いてくれたらいいよね」という話をしてたんです。そこで僕から正式にオファーをして、今年に入ったくらいのタイミングで細野さんからベースのデータが届いた。それをはめ込んで、1月の後半ギリギリまで時間をかけて曲を仕上げたらイイ形になったので、やっぱりアルバムに入れることにしたんです。なんとなくAA面の1曲目がいいと思ったのは、他に生ドラムの曲はないし、レコードだと片面の1曲目が一番音圧が高くできますからね。そこから曲順を考え直して、結構他も大きく変わりました。A面の1、2曲目や、両面ラストの曲の位置は変えてないんですけどね。


──今回、TEIさんはアルバムをアナログLPのサイズで考えていて、通常のAB面ではなく、A面とAA面という区分けにしていますよね。

TT:まず、基本的に僕はオールドスクールな人間で、やっぱり作るならアナログだろうと思ってます。曲順を決めるときも、ここまでがA面、ここからB面ということは意識します。ただ最近はLPを聴いてても片面だけで疲れちゃうことも多くて、「今日はB面から聴いてみよう」と思うこともある。それで、AとBではなく、AとAAという独立した2クラスターに分けてみたんです。結果的には、長いスパンで前半にできた曲がA面、後半にできた曲がAA面になりました。そのAA面の最初の曲が、作業の最後にできた「THE PROPHET」。ギリギリ間に合って入った。


──A面は、ゲストヴォーカル以外はテイさんが基本的にすべてのトラックを作った曲、AA面はヴォーカル以外に演奏にゲストプレイヤーが参加した曲という区分けなのかなとも思っていました。

TT:確かにそうですね。それはまったく考えてなかった(笑)。


──サイドの変わり目に幸宏さんの生ドラムの音が入ってくるのは、結構衝撃的ですよね。

TT:そうですね。METAFIVEではライヴでもレコーディングも幸宏さんのドラムを堪能させてもらってたんですけど、自分のアルバムとしては初めて参加してもらう形になった。しかも曲の中で20世紀の幸宏さんと21世紀の細野さんが出会えた。僕はマッチングアプリみたいなものですよね(笑)。あの2人にもう一度一緒に演奏してもらうために壁とか床を作った感じですかね。あと、この曲に声がサンプリングで入ってるじゃないですか。あれがまたやばいんですよ。もともとあれは僕が録っていたカセットに入ってた声なんです。昔のカセットがいっぱいあるんで最近よく聞き返してるんですけど、これは96年に診てもらった占いのおばちゃんなんです。


──そうなんですか! なんとなく啓示的なことを言っているなと思って聞いてましたが、占いの言葉だったとは。

TT:アメリカから来たすごく当たる占いのおばちゃんでした。僕は何度か観てもらってたんですけど、そのうちの1回をカセットに録音してたのを、ちょっと編集して使ってるんです。そのとき、僕はニューヨークから東京に帰ってきて間もなかったんですけど、すでに東京に疲れていて、「東京以外の場所に住むのはアリかな?」とか聞いてるんですよね。そういう問いに対して彼女が「タイミングはユニバースが教えてくれるよ」と答えてくれていて、そのあたりをコラージュして使ってます。


──ある意味、そのおばちゃんの存在があるので曲名が「THE PROPHET」(予言者)?

TT:そうです! ブライアン・イーノとデヴィッド・バーンの『My Life In Bush Of Ghosts』(1981年)って大好きなアルバムなんですけど、今回やった手法的にはああいうことでしたね。まずドラムに彼女の言葉を張り付けてみたんですよ。そしたらテンポもいじってないのに、ドラムが止まったところに言葉がうまく入ったり大体合った。『マトリックス』に出てくるオラクルじゃないけど、そのおばちゃんに「大丈夫よ」とポジティブなことを言われて、その後30年がんばってやってきたところも僕にはやっぱりあって。「一番大事なのは今だけ」とか「タイミングはユニバースが教えてくれるよ」ってポジティヴに言ってくれてる彼女の言葉をシェアしたかったというか。あとは、YMOの3人が使い倒したシンセの名前がプロフェット5でもある。それでこのタイトルにしました。


──結果的に必然的なタイミング。では、この流れでアルバムの曲についてA面から順にお聞きします。まずはA①「THE FINEST」。

TT:結論から言うと、これはリミックスです。元は、サード・アルバム『Last Cetury Modern』(1999年)に入ってる「CONGRATULATIONS!」という曲。そこでは「Oh baby, you're the finest」というフレーズをコリー・デイ(ex. Dr. Buzzard's Original Savannah Band)に歌ってもらってました。そのメロディはSOSバンドがオリジナルで、そのフレーズをコリー・デイに歌ってもらいたかった。この曲では、Deee-Liteの「Grooves In The Heart」でQ-Tipがラップしてるトラックと同じネタをブレイクビーツとして使ってます。それも久しぶりに自分で使ってみた。そういう気分で作っていったタイミングで、ちょうどさっき言っていたアナログテープから移行で「CONGRATULATIONS!」の素材も出てきたので、試しにドラッグ&ドロップしてみたら「合うじゃん!」となったんです。

 リミックスっていうと「リミックス・アルバムを作るぞ」とか「フロアライクなヴァージョンを作るぞ」みたいに目的がしっかりある印象なんですけど、今回の僕の場合は、たまたまできたものが昔作っていたビートと合うなとか、そういう実験をやってただけ。それがうまくいったので、「THE FINEST」には昔のいろんな自分のアーカイブから持ってこようと思って、同じ『Last Cetury Modern』から「CHATR」のストリングスを持ってきたし、「STRETCH BUILDING BAMBOO」からはガムランの音を持ってきた。冒頭に出てくるガムランは、昔録ったけど使ってなかったアウトテイクでした。


──自分コラージュみたいな。

TT:そうですね。還暦になったときに、いろんな人に「二周目もがんばってね」って言われたんです。僕は一周目にやってきたことはあんまり使わないんですよ。今回はあえて過去アーカイブをひらいて、自分サンプリングで作ってみようと思いました。タイトルは、もともとのSOSバンドの曲名と同じ「THE FINEST」に変えましたけど、「CONGRATULATIONS!」とは、いわば「異名同曲」です。


──つまり、リミックスではない言い方が合う気がします。

TT:細野さんのラジオに出たとき、「リミックスではなく、何なんでしょう?」って聞いたんです。細野さんもよくそういうことをするから。そしたら細野さんは「自分的には、アップデート」という答えでした。今の気分に近くするという意味。アップデートか、なるほど、と思って、もう1回くらいやってみようと思って作ったのが、「B4GP4B」。あれはサラッとできちゃいました。


──次が、石野卓球さんをフィーチャリングしたA②「TYPICAL!」。

TT:去年、アルバムを還暦で出すのは無理とわかったので、1曲でもドーナツ盤としても出そうと決めて作りました。そういえば、DJでわっしょいわっしょい盛り上がる曲はあんまり作ってなかったなと考えながら温泉に浸かってたら、「TYPICAL! TYPICAL...」ってフレーズが浮かんできちゃったんですよ。それで、これを歌うのは石野卓球だろう、と直感しました。「でも歌わないだろうなー」と思いつつ、オファーしたら、返事が来ました。卓球とはDJで一緒になる以外では、初めて音楽の仕事をしましたね。一緒にスタジオに入って、60分くらいですべて終えて「この後あるんで」って帰っていきました(笑)。

 そしたら翌々日くらいだったかSMSが来て、「テイさんがよく女の子をプロデュースしてるわけがわかりました」って書いてあったんです。「優しかった」って(笑)。卓球はテクノの人だから、リズム感が良いんです。途中で歌が三連符になるところは、僕が勝手に加工したんですけどね。卓球は、どう思ったかなー(笑)。あとは、レゲエのアルバムもよく聴くので、ヒット曲の後にダブが来るパターンをやりたかったんですよね。なので、アルバムでは後半はダブにしました。メインヴァージョンとダブヴァージョンをつなげて5分くらいにした感じ。まあでも、DJプレイを自分のレコードで締められるような曲ができたので、こんな曲もまだ作ろうと思えば作れるんだなと思いましたね。


──A③「LUDLOW」。これはすべてテイさんの打ち込み曲ですね。

TT:ニューヨークに2年前くらいに行ったとき、泊まってたホテルで打ち込みで曲でも作るかと思ってやったら、結構できちゃったんですよ。救急車のサイレンが欲しいなと話してたら、ニューヨークで友達が「いいの録れたよ!」ってSMS送ってくれて、それがばっちりだったんでそのまま使いました。帰国してからもう少しコラージュを足しましたけど、曲調、ベースライン、ドラムパターン、コード展開はほぼ現地で作りました。


──次に来たのがA④「INSECTA」。

TT:中国語を音の要素として入れたいなと思ったんです。あとは、細野さんが幸宏さんのアルバム(『Once A Fool, ...』1985年)で提供した「昆虫記」って曲が好きなので。この曲はタイトルから決めましたね。ほとんどひとりで作り上げた「LUDLOW」みたいな曲もあれば、中国語ができないから誰かいないか探してたら、る鹿さんがいたので「INSECTA」になったりする。タイミングというか、縁というか、チャンス・オペレーションですね。チャンオペを呼び込めるのは音楽の一番面白いところ。「THE PROPHET」にしても30年にわたるチャンオペだったわけで。


──ずっとどうすべきか考えてました、という曲だとしたら意味合いも重さも変わっちゃいますもんね。

TT:そうそう。幸宏さんに2、3回「あのドラム、どうなった?」って聞かれて、謝ってただけだから(笑)。去年カセットを気にして聴いてたのもチャンオペだし、当時の技術では無理だったヒスノイズの除去も今ではできるようになったという進化もある意味タイミング。る鹿ちゃんもこの曲を面白がってくれたし、さらにそこから「HAPPYHOUR」にも参加してくれて2曲がつながったし。そもそもつながる予定じゃなかった曲ですからね。「INSECTA」は、AA面後半のつもりだったし。


──A⑤「HAPPYHOUR」はシンセの音色が印象的です。

TT:自分の中では実験曲です。シンセ祭りというか。タイトルは「アメリカ人ってハッピーアワーで3時くらいから飲んでるよなあ」みたいな印象があって、自分にとってのハッピーアワーはシンセにハマってるときだという感じです。プラグインも使ってるけど、Buchlaの新しいシンセを目的もなくいじって偶然生まれた、二度と再現できない音をどんどん録っていきました。そのコラージュに「COE STATION」っていう僕のトーンジェネレーターに「シンセサイザー、ハッピー」って言わせた。でも途中から、歌ったほうがいいと思って、初音ミクにも歌わせて、最終的には生の声もあったらいいなと思ってる鹿ちゃんに歌ってもらいました。ちなみに、中国語のセリフは「電子音楽は酒のツマミになります」という歌詞なんです(笑)


──AA面に移って、「THE PROPHET」の次に来るのはAA②「GUM」です。

TT:当初はこの曲でAA面は始めるつもりだったんですよ。日本語になるところのアレンジを手伝ってくれた原口沙輔くんは、お父さんが僕のファンらしくて、小学生くらいから僕のイベントにいつも来てたんです。「成人したら何かやろう」って約束していて、今回がそのタイミングだったという感じです。最初、沙輔くんには歌を合成音声にするんで、Synthesizer Vの使い方をスタジオで教えてもらったんですよ。ただ、僕には無理というか、それを覚えるのを頑張りたくはないなと思ったので、具体的な作業は彼にやってもらったんです。でも、急に気が変わってSynthesizer Vはまったく使わず(笑)。外国人が歌ったら面白いなと思って、TAPRIKK SWEEZEEとBAKUBAKUDOKINに歌ってもらいました。


──TAPRIKKさんとはもう長い縁ですよね。

TT:「TASTE OF YOU」(2008年)や「ALPHA」(2011年)の頃からですからね。ただ、僕はまだ本人と直に会ったことがないんですよ。今回は、日本語をローマ字で打って歌ってもらいました。二日後くらいにはもうやってくれて、仕上がりもいつも完璧なんです。ちなみに、この「GUM」はチューインガムというより「歯茎」って意味です。歳をとると歯茎って下がっていくから、物が挟まりやすくなるじゃないですか。「着信、既読スルー」みたいな曲は世の中に多いけど、歯茎が下がることをどういうふうにポエジーに持っていけるかなと思って歌詞をAIに頼ったりしました。そういう曲です(笑)。


──AA③「B4GP4B」は「BLUE FOR GIRLS, PINK FOR BOYS」(2012年)のアップデート曲。

TT:これもTAPRIKKに参加してもらいました。ちょっとかわいい曲も入れなきゃなと思ったので。「GUM」もそのつもりだったんですけど、結果的に「きしょかわいい」になっちゃったので(笑)。


──そして、もともと「LUDLOW」とつながるはずだったAA④「WELCOME RAIN」。Chappoの福原音、細野悠太参加曲です。

TT:すごく雨が降った日に、もともと塗料の入ってた一斗缶をもらっててそれを表に出して三つ並べてマイクを入れて録った音を使ってます。すごくいい音するんですよ。当初は「LUDLOW」のオーガニックな感じから、散歩してたら雨が降ってきたので「WELCOME RAIN」になるようなストーリー性を持たせてたんです。Chappoに声をかけたのは、彼らの曲を聴いて面白かったし、何か一緒にやれないかなと思ったからだし、曲をもっとオーガニックにしたかった。作業的には初期段階の骨格だけのうちに音くんにデモを渡しました。そこに、彼らがÅlborgのmiyaちゃんを呼んで勝手に仮歌を録っていて、でもそれを聴いて、結構合うかもなと思ったんです。僕は当初はもうちょっと違う人をイメージしてたんですけど。彼らは僕に言わずにmiyaちゃんで勝手に録っていた。そこら辺が新世代というか、いい根性してますよ(笑)。でも僕は好きですね、そういうところは。

 miyaちゃんのデモはサラッと歌っただけで、僕がディレクションしたらもうちょっとよくなるかもと思ったので、あらためて紹介してもらい、正式にレコーディングしました。輪唱のところとかは彼らから戻ってきた仮歌の時点であったアイデアで、それも採用しました。なのでこの曲はfeaturingとしてChappoとmiyaちゃんをクレジットすることにしました。もっと悠太くんがベースいっぱい弾いてくれてもよかったけどね。まあ、かっこいいですよ、彼のベースは。


──ちなみに、細野家の祖父と孫が一緒に入っている初めてのアルバムになるのではないでしょうか?

TT:あ! それ今気がついた! 先に悠太くんのレコーディングは終わってたんで、細野さんに頼んだ時点では一緒になることを忘れてた(笑)。しかも、「B4GP4B」にはベースで2013年の伊賀さんのベースが入ってる。今気がついたけどAA面にはエレキベースが3曲入っていて、しかも細野さん関連だけ! すごい……。無意識だったけど。


──AA⑤「TIME IN TOKIO」は、アルバムから先行配信された曲です。

TT:先行で出したときとは言葉を少し変えてます。合成音声で男性の声が多くなってたんで、女性の声を入れたかったのと、スペイン語も入れたくて探しました。そしたら歯科医の友達が、「うちのバイトにしゃべれる子いますよ」と紹介してくれて(笑)。英語のほうはオーストラリア・アクセントの子と、KOKO ISHIZUKAという11年間スペインに住んでいたモデルの子にしゃべってもらいました。

 この曲も前半に制作していたんです。曲の原型は「TYPICAL!」と同じ時期くらいにはありました。完成したのが後半。作り方は「GUM」と一緒で、これも歌詞から考えていったんです。仕事で東京にいて朝早く目が覚めちゃってお腹が空いてるとき、築地まで結構タクシーで食べに行くんですよ。それで「築地までタクシー2000円、いつもの定食1000円。帰ってきてコーヒー100円。いつものプラグイン立ち上げてさあ曲でも作ろうかな」みたいな内容の歌詞。まあ、歌ではなくしゃべりですけどね。でも、詞先で作る作業って面白いなと思ってます。そのきっかけになったかもしれないのが、去年、KOJI 1200(今田耕司)の「Shining Star」(2024年10月配信)のサウンドプロデュースをしたことかもしれない。最初はソロアルバムを作りたいから断る気満々だったんですが、詞先ってやったことないから誰かが歌詞を書いてくれて面白く思えたらやれるかもって言ったんです。そしたら2日後くらいに「鈴木京香さま(音葉名義)が書いてくれることになりました」と連絡が来て。やってみたら詞先の作業がすごく面白かったんですよ。曲もすぐできたし。その体験とこの曲はつながってますね。


──そしてラスト。AA⑥「HAPPYEND」です。

TT:最後にラウンジーな感じでやりたいなと思って、まず歌詞を書来ました。安田寿之くんにピアノを弾いてもらい、ウッドベースやヴィブラフォンも打ち込んでもらい、最後に高田漣くんにスチールギターで入ってもらいました。


──SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINEの「THE END OF A LOVE AFFAIR」(1997年)も思い出します。

TT:やってることはだいたい同じなんですよ。あの時はAtom TM.に指示してやってもらいましたけど。


──よく聞かれると思いますし、このアルバムにも随所でAIが使われているそうですが、これからの音楽とAIの関係についてはどんなことを考えてますか?

TT:世の中的には、2024年は「AI元年」と言われてるじゃないですか。多分、シンギュラリティも5年とか7年くらいで想像以上の地点まで行くと思うし、ネガティヴな心配もあるというのもわかるんですけど、僕はどちらかというと楽しみなことのほうが多いですね。普段は基本的にひとりで音楽を作ってるので、これからAIとやりとりすることはもっと増えていくだろうなと思う。「ここまで作ったけど、何かある?」「ヴァリエーションもっとある?」「コードは変えずに違うヴォイシング出してよ」とか、大事なのはプロンプトですね。今回の作業でもそのまま使えた回答は、まだまだ2、3割くらいですね。あとは自分で膨らませたものをまたAIに投げて、また返ってきて、みたいな工程になる。要は、何を活かして何を削ぐか。その部分には自信ありますよ。芸大の作曲家を出たようなAIがアシスタント的な役割をしてくれることになるので、もっとリリースは増えるかもしれないですね。


──今回のジャケットアートは横尾忠則さんです。

TT:横尾さんはもうあんまり仕事を受けていないと聞いていたんですが、ありがたいことに僕の依頼は引き受けてくださいました。とりあえず会いに来てくださいということで、アトリエに初めて伺いました。お会いするのは15年ぶりくらいだったんですが、僕のことは覚えていただいてましたね。同行したカメラマンには良き2ショットを記念に撮ってもらえたのですが、僕自身はアルバム・タイトルなど打ち合わせとして伝えねばならないことを忘れないようにと集中し過ぎてしまい、カメラマンには帰り際に「テイさん、話、随分短かったすねぇ」と言われてしまいました。確かに、インド、宇宙人、UFOの話とか一番聞きたかったことをまったく聞けなかった。それは後悔しました。しかし、できあがってきたポートレートは全体的に鮮やかな青の効いた非常にカラフルかつ7機もUFOが飛び交う背景で、本当にお願いしてよかったです。

 「何故にUFO?」とも、いい意味で思いましたが。お会いしたとき「最近の仕事は?」と横尾さんに聞かれて、パッと答えられなかったんですが、あとでマネージャーさんに「SFアニメのサントラやMUJIの店内音楽やらやりました」とは伝えたので、そこからのUFOだったんですかねぇ。裏ジャケやインナーは、還暦アルバムなのでとりあえず紅白で進めていたんです。結果的に、横尾さんが描いた青の表紙とのバランスでなんだかUSA感が出て今っぽいなぁ、と。やはり横尾さんは宇宙人なんだろなぁと改めて思いました。


──アルバム・タイトルを『AH!!』とつけたのは?

TT:ファーストの「FUTURE LISTENING!」(1994年)は「!」マークひとつだったんですけど、13枚目で人生2週目ということで、ふたつにしました。あと、短い言葉がいいなと思ったんです。「A」から辞書を見ていったら「AH」で初めて音になった。「あー」なるほど、ですよね。僕も温泉に入ったら、なんとなく「あー」って言っちゃうんですよ。「あー、TOWA TEIね」みたいなものがまた出てきたなという自負というか、やるんだよという感じですね。


──これからのTOWA TEIについては、どう考えていらっしゃいますか?

TT:90年に26歳でプロになって、いまだになんとなく続けて来れて、30歳、40歳になったときに、あれ? まだやってるな、とは思ってましたね。50歳になるときにクラブDJのレギュラーは全部やめたんですよ。単発のオファーがあって条件があったらやるかな、くらいの感じ。去年くらいからは深夜のDJのお誘いも基本的にはお断りするようになって、ようやくセミセミリタイアからセミリタイアあたりまで到達した。とはいえ、頭と手が動く限りは生涯現役でいれるとは思います。要は、これからはより自分の制作物を最優先にしたいんです。

 例えばですけど、来年2026年だったら「2601」というタイトルで5曲くらい作って出して、まだ作れたら「2602」も出して、翌年も「2701」を出して、そういう曲が溜まったら、そこから曲を選んで片面20分のアナログ盤を出す、みたいなことは考えますね。レコードの「片面」くらいになったと思えるくらいの20分作ったら、配信だけで出すのはいいのかな。今、リック・ルービンの自伝を読んでるところなんですけど、彼も「前のを超えなきゃ」みたいに構えちゃうとなかなか次のアルバムが出せなくなると書いています。今の僕はセミリタイアに入ったし、傑作を作るぞみたいに構えないで、ハーフでいいかなと。ラーメン屋で「麺はハーフにしてください」って注文するのに近いかもしれない(笑)


──テイさんはもともと構えない人だと思うんです。

TT:物を作るのが好きなんですよ。自分なりにそのときの気分やそのときの実験を出せればいい。実験なんて成功とは限らないし、失敗でもいいんじゃないかなと思うし。だからさっき言った「2601」みたいな作り方に僕はちょっとワクワクしてます。もうちょっと気楽にやりたいというか、今回のアルバムもA面がこういう意味で、AA面がこういう意味です、みたいな重さではなくね。

 さっきも言いましたけど、AIも自分にとっては全然ポジティブだと思ってるんですよ。体力や集中力は右肩下がりだけどAIに補ってもらえたりする。車の自動運転に関しても楽しみにしてます。毎日草津温泉に行ってやろうと思ってますから(笑)。そういう部分では意外とポジティブ。ただ世の中はめちゃくちゃカオティックだし、戦争も起きてるし、気がかりなことは多い。だけど、自分のやることをやるしかないというか、それを楽しんでやってれば誰かしら楽しんでくれるだろう。TOWA TEIを聴いたらよく眠れるという人もいるそうなので、文句言ってないで自分がやれることをやるという感じですかね。やりたいことはそんなになくて、常に眠たい。それ以外は、温泉に入りたい。でもその二つだけだと飽きちゃうから、なるべく美味しいものを食べたい。あとはレコードを聴きたい。でも聴いてるだけでも飽きちゃうから、曲作りたい。曲が溜まれば、レコードにしたい。そう考えていくと、音楽聴いたり作ったりするのと温泉入ることもつながってる。もはや僕には温泉は音楽と直結してるんです。温泉を「外スタ」と呼んでるんで(笑)


──そこで創作の刺激になるものとは?

TT:相変わらずレコードを聴いていて、これは取り入れられそうだと思うこともまだまだ多いし、アートも刺激になる。以前は、とりあえずマック立ち上げて、いじくり倒して「鳴け!」って感じだったんですけど、今は自分から何か鳴くのを待ってます。温泉で気持ちいいと「あー」って言いますし、「TYPICAL! TYPICAL!」って鼻歌も出てくる。そういうのが出てきたら「やったー、チャリーン!」って感じ(笑)。あと今でも一番好きなのはひとりでいること。だから音楽を作れるんじゃないですか? ひとりの時間が好きで、作るのが好き。絵を描くのが大好きだった子どもの頃から何も変わってないですね。絵は子どもの頃に描き尽くしちゃったけど。


──逆にいうと、まだTOWA TEIとしての音楽は作り尽くしてない?

いや、結構やったかなとも思ってます(笑)。「あー、TOWA TEIね」みたいな? そういう自分での自虐も含めてのタイトルなのかも。でも、構えて聴いてもらうより、「また出てたのか」くらいがいいんですよ。




インタビュー BY 松永 良平



TOWA TEI 「AH!!」
仕様:アルバム/アナログ
品番:MBLP-2501 
価格:¥5,550(税込)
全11曲収録予定
参加アーティスト:石野卓球、権藤知彦、高田漣、高橋幸宏、原口沙輔、細野晴臣、る鹿、BAKUBAKUDOKIN、CHAPPO、MIYA(Ålborg)、TAPRIKK SWEEZEE、VERBAL、他

ジャケットアートワーク: 横尾忠則

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